会長からのメッセージ

感謝報恩の道

令和7年かむながらのみち感謝祭、洵におめでとうございます。昨年秋、落慶を迎えた歓びもまだ記憶に新しい新本部道場におきまして、全国会員の皆様とこの佳き日を共にできますことを、心よりお慶び申し上げます。

毎年お伝えしていることではありますが、この感謝祭において平成25年より厳修しております『仁王護国般若波羅蜜多経法(にんのうごこくはんにゃはらみたきょうぼう)』。この仁王法(にんのうぼう)は810年、時の嵯峨(さが)天皇が朝廷内で起こった内紛により未曾有の国難に陥っている状況を救うべく、唐より帰国した弘法大師空海に鎮静の祈りをご依頼されたことに由来します。空海はこれを受け『仁王経法』を厳修、不眠不休で祈り込み、内紛を収め、世は平安を取り戻したと歴史にあります。

実に1400年の悠久の時を経て祈り継がれてきたこの大法は、真言密教の中でも秘法中の秘法、三密加持(さんみつかじ)の究極の奥義とされています。

加持の加とは「加被(かひ)」の略。加被とはみ仏のお力が加わり、それを被(こうむ)ること。この宇宙には既にみ仏の力――法が充満しています。何一つとっても法のおかげでないものはありません。みえない「いのち」の力。それを私たちは「みたま」とよんでいます。

ですが、そのお力も、そのままでは単に「ある」にすぎません。そこには人の力、切なる願い、すなわち正しき法にのっとった「祈り」がなければ、み仏の力は真にはたらかないのです。

この祈る側の思いと行動、これを「摂持(せつじ)」と言います。その摂持を略して「持」。すなわち加持とは、加被・摂持、見える力と見えない力が真に一つとなった、そのおはたらきを言うのです。

喩えていうとすれば、この地球には常に太陽の光が降りそそいでいます。それは大自然の力であり法そのもの。そして、人間はその叡智と努力を積み重ね、ソーラーパネルというものを生み出し、日々の生活に欠かせない電力を作ることに成功しました。これが祈りです。

この加持力によって、三業――私たち凡夫の煩悩業障(ぼんのうごっしょう)にまみれた身口意、身と言葉と心が三密――み仏の境位(きょうい)と等しくなる。これが三密加持。真言密教の法はすべて、この三密加持のおはたらきを起こすためのものですが、その中でも究極の奥義が仁王経法であるのです。

私はこの尊い法を、故仲田順和(なかたじゅんな)・前門跡猊下(もんぜきげいか)より忝(かたじけな)くもお許しを賜(たまわ)り、この感謝祭において修して参りました。おかげさまで、年を経るごとに職衆(しきしゅう)の方々が数を増し、研鑽を重ね、熱呪熱祷(ねつじゅねっとう)を共に捧げることがかなっております。

もちろんそれは職衆のみが祈り込む法ではなく、そこに思いを寄せ、心を一つにし、参座された皆様自身の祈りの力。それが文字通り結集(けつじゅう)することによって、法の力は弥益(いやます)に高まるのです。この世は量が質を生みます。だからこそ1人でも多く、この尊きみ祭りを共にしていただきたいと、常に皆様へお伝えしているのです。

奇しくも本年は、2年に1度の大峯山入峰修行の年回りにあたり、今回は29名の参加者、そのうち新客(初参加)が13名、さらに先達2名の計31名が修行を無魔成満されましたことは、洵に喜ばしいことであります。

さらに、9月27日から10月1日にかけて本山醍醐寺にて行なわれた修験伝法教校(しゅげんでんぽうきょうこう)において、新たに4名の伝法灌頂者(でんぽうかんじょうしゃ)が生まれたことに、私は心から祝辞を述べさせていただく所存です。

人は成長があって、初めて自己の使命を果たすことができます。逆に、現状のままでよいと願った時点で、人は維持どころか下降へと向かい始めます。

もちろん、先のような特別な方法でなくてもよい。日々の生活そのものが修行であると、これも再三申し上げている通りです。それぞれの生活課題に向き合い、取り組み、必死にもがき乗り越えていく過程にこそ人生の意味、意義があり、そしてその結果、得られた人間的成長を、今度は他者の救済へと振り替えていくのです。

道祖は常におっしゃっていました。「解脱は病直(やまいなお)しの道に非(あら)ず、心直しの道なり」と。にもかかわらず、「こんなに祈っているのに、なんで結果が出ない。なんで病気が治らない」と、いまだに口にする方がいらっしゃることは、まことに哀しむべきことと思います。

「なぜ病気が治らない」のか。それは、単刀直入に申し上げれば、「病を治すために拝んでいるから」です。宗祖弘法大師空海の『般若心経秘鍵(ひけん)』に、次のような一節があります。

夫(そ)れ仏法(ぶっぽう)遥(はる)かに非(あら)ず。心中(しんちゅう)にして即(すなわ)ち近(ちか)し。
真如(しんにょ)外(ほか)に非(あら)ず。身(み)を棄(す)てて何(いずく)んか求(もと)めん。
迷悟(めいご)吾(われ)に在(あ)れば、発心(ほっしん)すれば即(すなわ)ち到(いた)る。
明暗(みょうあん)、他(た)に非(あら)ざれば、信修(しんしゅう)すれば忽(たちまち)に證(しょう)す。

(現代語訳)仏の教えは遠くにあるのではなく、自身の心の中にあって、極めて身近なものです。真実は心の外にはないのですから、我が身をおいて一体どこを探そうというのでしょう。迷いも悟りも自身の中にあるのですから、発心さえすれば、必ず悟りに到達します。智慧の光も煩悩の闇も、自身以外にないのですから、信じて修行すれば、たちまちに證(あかし)を得ることができます。

仏法では発心、修行、菩提、涅槃という道行(みちゆき)を示しますが、何より最初の「発心」こそが、悟りへと至る根本です。逆にいえば、悟りを目指そうという発心を保つことこそが、何より肝心なのです。

人は様々なご縁を機に、み教えに導かれます。そして、自身の心を変革すること。今までの生き方を180度、転換して、神仏の意にそった生き方へ変えようと、決意し、修行に入ります。

ですが、いつしか人は初心を忘れ、祈っても結果が出ない、現実が変わらない、信仰なんて何の意味があるのかと、疑い、不安、不満の念がきざし、尊いご縁を棄ててしまう方もいらっしゃいます。

結果が出ないのは、自身の心が変わっていないから。自身の心が変われば、結果―― 證(しょう)はおのずと現われる。真に法にかなった祈りは、必ずや現実を動かします。これは当然の理です。ですが、その法の根本には、それぞれの発心――自身の心こそがすべての源であり、それをこそ変えていくのだという想い、願いがなければ、決して神仏の力は加わることはないのです。「加持力」とはならないのです。

どうか、その真理、神理を、会員の皆様が再度、自身の心中に深くおとしこみ、それぞれの祈りと学びに励んでいただきたいと思います。

繰り返しますが、祈りは必ずや現実を動かします。加持――加被と摂持の法則は絶対です。だからこそ、常に自身の心に問うてください。結果を求める祈りになっていないか。自身の成長をあきらめていないかと……

さらに一言、申し上げたいことがございます。この感謝祭は、文字通り感謝をささげるみ祭りとして執行しておりますが、では何に対する「感謝」なのか。神仏、ご先祖、有縁無縁の御霊、大自然、森羅万象、あらゆるいのちへの感謝……それもそうなのですが、是非会員諸子に意識していただきたいのは、身近な人への感謝です。

今さら言うまでもないことですが、道祖のみ教えの中心は「感謝報恩」、この一言に尽きます。

宗教(しゅうきょう)の本質(ほんしつ)は感謝報恩(かんしゃほうおん)そのものである。
自分(じぶん)を捨(す)てて報恩感謝(ほうおんかんしゃ)せよ、惜(お)し気(げ)なく感謝(かんしゃ)せよ、勇敢(ゆうかん)に感謝(かんしゃ)せよ、一(いち)も感謝(かんしゃ)二(に)も感謝(かんしゃ)、感謝報恩(かんしゃほうおん)に奮(ふる)い立(た)つものに、幸福(こうふく)の訪(おとず)れぬ理由(りゆう)はない、そこに微妙(びみょう)な神秘(しんぴ)があります。
針(はり)ほどの恩(おん)を棒(ぼう)ほどに着(き)られる人間(にんげん)になれ。

このような道祖のお言葉は挙げればキリがないのですが、報恩――恩に報いるとは、たとえば高価な品物をお返しするとか、旅行に連れていくとか、おいしいものをごちそうするとか、そういった類(たぐい)のことも時には必要でありましょうが、何より根本的には「ありがとう」という、その一言が大事なのです。

今年は行動の年であるとは、再三お伝えしている通りですが、思っていることをきちんと言葉にする。それも大切な行ないです。

いま人生で関わっている身近な人たち。家族、親戚、職場の仲間、地域の人たち、そういった人たちに、この感謝祭が終わったら、是非とも感謝の言葉をあなた自身から伝えていただきたい。

いくら神様、仏様と拝み尊んでも、自分の周りの人を大切にしなければ、その心は決して神仏には届きません。むしろ、神仏は、まず身近な人たちの姿をもって表われるのです。

そしてもちろん、報恩の究極は法施、すなわち「お導き」です。この尊きみ教えをもって、自身が救われたと感じたならば、その想いを他の方たちにも分かち合い、共にこの道を歩んでいこうと決意する心と行動。まさに「発心」です。そのことを再度、心に念じて、神仏のみ前で真行者としての誓いを共に致しましょう。

かむながらのみちとは、人が幸せになれる道です。感謝報恩の心と行動を、世界中へと広めていく道です。

どうかお互い様に、この歓びに満ちあふれたみ祭りを機に、さらなる躍進を遂げ、新たなる年へと向かって参りましょう。

合掌禮拝

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